大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)2683号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

大阪高等検察庁検事長藤原末作の上告趣意第一点について。

河川法の適用または準用ある河川は、地方行政庁が河川法六条、五条、河川法準用令等によってこれを管理するのであるが、これらの法令による管理は、公共の利害に重大な関係がある河川を保全するための行政措置であって、河川またはその敷地もしくは流水の効用を保護助長することを目的とするものにほかならない。そして、地方行政庁の河川管理は、おのずから河川敷地内に堆積している砂利、砂、栗石(以下単に砂利等という)にも及ぶことは当然であるが、その採取を地方行政庁の許可にかからしめているのは、採取行為が河川法一九条にいう流水または敷地の現状等に影響を及ぼす恐れのある行為であるからであって、地方行政庁が河川を管理するという一事によって、河川敷地内に存し移動の可能性ある砂利等を当然に管理占有することによるものではない。もとより、地方行政庁の職員が河川敷地内に堆積している砂利等を随時見回り管理しているという事実のあることは、あながち否定できないけれども、それは河川の管理に附随してなされているものであるから、その管理は公共の利用を確保するため等の行政的措置にほかならないのみでなく、これらの砂利等は、流水の変化に伴ない移動を免かれないので、その占有を保持するため他に特段の事実上の支配がなされない限り、右の事実だけでは刑法の窃盗罪の規定によって保護されるべき管理占有が地方行政庁によってなされているものと認めることはできない。

本件公訴事実によれば、被告人は昭和二六年三月七日大阪府知事より大阪府泉北郡忠岡町循並橋下流約三百米の大律川川床内の砂利、砂、栗石合計一〇坪の払下許可を受けた上、所轄大阪府土木出張所において所定の手続を経て採取鑑札の下附を受けて、採取期間を昭和二六年三月一七日より同月二八日までと指定されたところ、右指定の採取期前には採取することができないのにかかわらず、砂利採取人夫頭藤田忠勝に指示して、右期間前の三月八日頃より同月一六日頃までの間に、砂利、砂、栗石合計約三坪九合を採取し、右採取期間経過後さらに許可を受けないで、同年三月二九日頃より同年四月二八日頃までの間に、砂利、砂、栗石等約一〇坪三合を採取したというのであって、記録を調べても、所轄地方行政庁が本件砂利等の管理占有につき、特段の措置を講じて事実上の支配を保持した事実は、これを窺うことができない。それゆえ、本件砂利等については、刑法の窃盗罪の規定によって保護されるべき管理占有に該当する事実は認められないのであるから、被告人の所為が窃盗罪を構成しないものとした原判決の判断は正当である。されば、これに反する大阪高等裁判所第四刑事部が昭和二八年五月二七日言渡した判決による所論判例はこれを変更し、原判決を維持するのを相当と認めるので、その他の上告趣意に対する判断を省略し、刑訴四一〇条二項、四一四条、三九六条に従い、裁判官全員の一致した意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例